悪性症候群 malignant syndrome
1.悪性症候群とは
悪性症候群は、精神分裂病に対する薬物療法(クロルプロマジン)が開始されて間もなく、1960年代にフランスで報告されたクロルプロマジン投与中の高熱、意識障害、筋固縮・不随意運動などの錐体外路症状を主徴とする重い副作用に名付けられた。「悪性」と付けられたのは、放置すると時に死に至る重篤な副作用であるという意味を示している。
一般に悪性症候群には、遺伝性や家族性は認めないが、精神発達遅滞、慢性アルコ−ル症、脳器質疾患などの中枢神経系の脆弱な症例に発症しやすい。
2.症状
典型的な場合は、悪性症候群の前駆症状として、無動・緘黙、発汗、頻脈、筋硬直、振戦、言語・嚥下障害、流涎、体温上昇などがある。この段階で適切な処置をせず、そのまま放置すると悪性症候群に進行し、体温は 1〜 2日の間に38〜40℃、さらに40℃以上に上昇し、意識障害、急速に進行する脱水症状や栄養障害、呼吸障害、循環虚脱をきたし、ついには死に至ることもある。
3.発生機序
発生機序は、未だ十分に解明されていないが、ドーパミン作動性神経が体温下降に、セロトニン作動神経が体温上昇に関与しており、悪性症候群の発症にはドーパミン・セロトニン不均衡状態が関与していると考えられ、またノルアドレナリンが関与するという指摘、筋繊維内のカルシウム代謝異常等の説もある。
4.治療法
悪性症候群が発現した場合、直ちに的確な治療が必要となる。抗精神病薬または他の原因医薬品の投与を即時中止し、対症的な全身管理を行いつつ、特異的治療を行う。
抗精神病薬の中止により、精神症状が急速に悪化することは稀れにあるが、やむを得ぬ場合は一時的に抑制し、睡眠薬などで鎮静をはかる。
抗パ−キンソン病薬の中止によるものである場合には、一旦中止前の投与量を再投与する。そしてこれらの処置と同時に体冷却、輸液等の支持療法を迅速に行う。
悪性症候群の特異的治療剤としては、抗パ−キンソン薬のブロモクリプチンと末梢性筋弛緩薬のダントロレンの有効性が認められている。
意識障害の場合には、錠剤を粉砕して、胃チュ−ブを通して鼻腔から注入する。まず 7.5MG/日から開始し、症状に応じて30MG程度まで増量する。ダントロレンとは作用機序が異なるので、併用するとより効果的である。ただ、悪性症候群に対する保険適用はない。
ダントロレン(ダントリウムF)は内用薬、注射薬ともに、悪性高熱症に保険が適用されている。内用薬は筋弛緩薬としてよく処方される。静注用は悪性高熱症に使用する場合、通常
1MG/KG(必ず蒸留水に溶解する)から開始し、約 1週間をめどとし、症状が改善すれば内用薬に切り換える。
静注用がない場合には内用薬を150〜200MGを鼻腔から注入する。軽症で経口摂取可能な場合は、内服薬を 75〜150MG/日から開始し、症状に応じて増減する。血清CKが正常化し、症状が安定すれば投与を中止する。
〔文献〕
古泉秀夫他:悪性症候群を惹起する薬剤,薬事新報 No.1702,89-103,1992.
山脇 成人:悪性症候群,中毒研究,Vol.6 No.3,245-251,1993.
西嶋・石黒:向精神薬と悪性症候群,日本医事新報 No.3612,137-138,1993.
西嶋・石黒:悪性症候群,日本医事新報 No.3669,30-34,1994.
山脇・林 :悪性症候群,治療,Vol.77 No.2,423-433,1995.
厚生省医薬品副作用情報,No.99−1989.11
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